Ecosystem 隠岐の生物・植生

隠岐のユニークな生物たち

1万年前に離島となった隠岐ですが、同じ日本海の離島である佐渡や対馬よりも、離島歴は短いです。そんな「若い離島・隠岐」には、進化の過程を観察できるユニークな生物たちが暮らしています。

オキサンショウウオ

オキサンショウウオは島後でしか確認されていない、固有の小型サンショウウオです。
単に固有というだけには留まらない非常に珍しい特徴をもっています。

オキタンポポ

オキタンポポは身近に見られる「隠岐でしか見られない種」のひとつです。日本の在来タンポポの一種で、セイヨウタンポポと簡単に見分けるには花の下にあるガク(総苞外片)を見ます。

ヤマネ

島後の山にすむヤマネは国の天然記念物にもなっている小型の哺乳類です。冬になると外気とあまり変わらないくらいの温度まで体温を下げて冬眠する変わった特徴を持っていることで知られています。

隠岐独特の植生

特別な場所に行かなくても、海水浴場や海岸の遊歩道沿いで、不思議な植生を観察できる隠岐。たとえば、北方系のハマナス、南方系のナゴラン、高山植物のクロベ、氷河期植物のカタクリが、潮風に吹かれながら海辺で仲良く混在しています。
不思議な植物分布を観察できる代表的な場所を紹介します。

ハマナス
ナゴラン
クロベ
カタクリ

春日浜の植生

島後の北東部に位置する布施地区の春日の浜周辺では、隠岐の植生の特徴である、本来であれば異なる環境に生えている植物が、同じ場所に混ざって生育している様子を見ることができます。
海岸近くの春日神社境内のクロマツには南方系のナゴランが着生し、クロマツの足下には山地性のオキシャクナゲが植樹されています。また、道路を隔てた海岸には北方系のハマナス、大陸系のトウテイラン、ミツバイワガサ、チョウジガマズミなどが自生している様子を観察することができます。

久見海岸の植生

久見地区では、集落へ入る手前の川岸(舟おろし)とローソク島展望台へ通じる久見海岸の2箇所で不思議な植生分布を観察することができます。「舟おろし」では、亜高山性のクロベ、イワカガミ、山地性のミズナラ、北方系のイタヤカエデ、南方系のトベラ、大陸系のミツバイワガサ、ヨコグラノキが狭い範囲で混在しています。
また、久見海岸では、氷河期時代の生き残りの植物であるシロウマアサツキが海岸に自生し、南方系のシャリンバイ、トベラ、大陸系のダルマギクなどと生育しています。

奥津戸海岸の植生

島後南西部の奥津戸海岸では、海岸の遊歩道沿いで北方系のイタヤカエデ、シナノキ、ユズリハ、南方系のトベラ、亜高山性のイワカガミ、大陸系のダルマギク、ミツバイワガサなどが混在する不思議な植物分布を簡単に観察することができます。
このような植生が成立する理由はまだすべてが解明された訳ではありません。特徴的な植物の分布が見られる場所にはアルカリ流紋岩が分布しているケースがいくつもあることから、地質的な要因も関係している可能性があります。

隠岐の海の生物

隠岐の海には、日本からおよそ1万kmも離れた紅海に分布する海藻(海藻唯一の天然記念物であるクロキヅタ)が生息しています。
そのほか、南国の海に棲むミノカサゴやニホンアワサンゴ、新種と考えられる1mのヒトデ。隠岐ユネスコ世界ジオパークの特徴的な海洋生物について紹介します。

クロキヅタ

クロキヅタは隠岐周辺の浅瀬で見られる南方系の海藻の一種です。およそ1300種が知られる海藻の中では唯一、棲息地が天然記念物に指定されている海藻です。
隠岐沿岸では、現在のところ島前、島後あわせて13箇所の生育地が確認されています。

イカ

隠岐の名物のひとつにイカがあります。
このイカと隠岐の人々の関わりはどうやら伝説や神話の時代にまでさかのぼるようです。

島前の西ノ島の入り江の奥にある由良比女神社の祭神である由良比女命の手をイカが噛み、その謝罪として毎年神社の横にある浜(イカ寄せの浜)にイカの群れが打ち上がるようになったというエピソードが伝えられています。
実際に昔は毎年のように祭りの時期にはイカ(シロイカ)が浜に打ち上がり、島の人たちは手づかみでそのイカを「拾って」いたと記録されているほか、現在でも数年に一度は群が大量に入り込んで来てイカ「拾い」がおこなわれます。

その他にも1mくらいの大きさの巨大なイカ(ソデイカ)が毎年秋〜冬頃に岸の近くに寄って来るので、それを「拾う」ために島の人たちが岸を見張っていることがあります。このイカの来る岸はちゃんと決まっており、島後と西ノ島の2ヶ所に「イカ寄せの浜」があります。どちらも南〜西に面した入り江の奥になっており、特にソデイカは南西から流れてくる対馬暖流に乗って南の海から来ることが判っていますので、隠岐の海岸地形とイカの生態(移動ルート)が関わっていることが伺えます。

死滅回遊魚

日本海の日本列島側は、対馬海峡からの黒潮の分流(対馬暖流)が流れています。この暖流は北海道の南北にある海峡から太平洋とベーリング海へ抜けていきます。そのため、太平洋側よりも温暖な海に生息する生物の分布が北に広がっています。

しかし、年中暖流の流れている日本海でも冬には温度が低下するため、海流に乗ってやってくる南方の海洋生物の一部は冬を越せなくて死んでしまいます。このような暖流に乗ってやってきて冬に死んでしまう亜熱帯や熱帯の魚を死滅回遊魚と呼びます。隠岐の沿岸ではハコフグやスズメダイなどの死滅回遊魚がよく見られます。

ですがこの死滅回遊は無駄ではありません。地球が温暖になって漂着先で冬が越せるようになれば、他の魚に先がけて新しいすみかを得ることができるのです。なぜこのような死滅回遊がおこなわれるのかまでは判りませんが、これもまた自然の異常ではなく、生き物の営みの一部と言えます。

生物と地理の関係

生物の種はいろいろなかたちで棲み分けをしているため、一種類の木からなる自然の森や、一種類の虫しかいない草原などはありません。ひとつの場所にはたくさんの大小の生物が暮らしており、ひとつの生態系を作っています。

しかし、この生態系も環境が違えば構成メンバーが変わります。南北に長い日本列島には亜寒帯から亜熱帯までの気候があり、プレートのぶつかりあう変動帯にあるために地形に起伏が多く、さまざまな生態系が見られ、いろいろな場所に棲み分けの境界線があります。

陸上生物の分布についてみれば、一番はっきりとした分布の境界線になるのは海峡です。隠岐と本州の間にある隠岐海峡を挟んだ対岸の島根半島と隠岐の生物には一見差が無いようにも見えますが、隠岐には大型の哺乳類が居ないこと、固有種がいることをはじめ、見られる生物に違いがあります。

また、隠岐諸島の中でも、島ごとに見られたり見られなかったりする生物がいます。

隠岐ユネスコ世界ジオパークでは、生物だけでなく、生物の暮らす環境まで含めた、生態系そのものも「大地の遺産」のひとつとして考え、紹介しています。

アオハナムグリ島前亜種
オキノウサギ